カオス・ホープ〜混沌の希望〜 《 護法童子様より 》

番外編 人形の復讐
「不吉じゃ……」
部屋で、黒を基準にした衣装を纏った一人の老婆がぼやいた。
「不吉じゃ……」
同じセリフを同じ声音でぼやく。
「不吉じゃ……」
三回目のぼやき。
「ふき……」
四回目をぼやこうとした瞬間!!!
「うるっっせぇーーーーーー!!!!!!」
紅い童子が襖を突き破り、背丈が自分ほどもない老婆にドロップキックを喰らわした。大して力がないくせに、老婆は何故か襖とは向かい側にある障子までぶっ飛んだ。
「ったく『不吉不吉』ってうるせぇ!!!!!のんびり眠れもしねぇじゃねえか!!!!」
仁王立ちになって怒鳴る童子を後ろから抱えあげた者がいた。
「これ前鬼。仮にも客だ。もっと丁寧に扱え」
「やかましい!!!!!客にうるさいも何もヘッタクレもあるか!!!!!」
抱えられたまま怒る前鬼と云われた童子は足をバタつかせ、蒼い瞳の青年から離れようともがく。が、青年の力はあまりに強く、離れなかった。
一方老婆はというと、ゆっくりと起き上がった。
「大丈夫ですか?すみませんね。うちの式神が手荒な真似をして」
誠意のこもってない謝罪の言葉に前鬼は、おい、と心の中で突っ込んだ。
起き上がった老婆はむくりと起き上がると眼を光らせた。
「おおっ!!!!!そなたは!!!!!」
跳ね上がり、自分の顔を見上げる老婆にロキは前鬼を抱えたまま半歩後退った。
「その母なる海を思わせる蒼の瞳!!!そなたこそまさしく勇者!!!」
………この時、全ての時は止まった。
「…………………はぁ?」
ロキは前鬼を抱えたまま、自分を「勇者」と呼んだ老婆を見下ろした。
「嘘をついても無駄じゃぞ!!!!!その蒼の眼はそうおらぬ!!!!」
「婆さん、どっかで頭ぶつけたか?」
抱えられたままの前鬼が老婆を見下ろした。
老婆は目をぎらつかせ。
「なぁにをいうか!!!!!生まれてこの方!!ワシは可笑しくなった事などはない!!!!!」
力説する老婆。ロキは「うーん」と困惑の声を漏らした。
「俺はただの一介の陰陽師なんだが………」
こいつの場合「一介」ではなく「一流」が付く気がする。
と、前鬼は思った。
「とにかく勇者よ!!ワシを助けてくれぃ!!!!!」
パンっ!!!と両手を擦りつけ、助けを請う老婆。
「助けてって、何かあったんで?」
「うぬ…あやつはワシをずっと追いかけておるのだ……」
「こんなババアを追いかける奴なんざどうかしてるな」
前鬼の至極真っ当な突っ込みにロキも頷いた。
「で、追いかけている奴とは?」
「うむ……」
と、その時だ。
『見つけたぞぅ!!!!』
不気味な声にロキ達は声のした外の方角を見た。前鬼を抱えたままのロキは、器用にも足で障子を開けた。老婆はその後ろに隠れる。
「どこだ!!!?」
『ここだ!!!!』
声の主は近くにいると言っているが、ロキにはそれらしい人物が見当たらない。
『ここだっちゅーに!!!!!』
声の主が更に声をでかくする。ロキはあたりに首を巡らせるが、見えない。
「でぇい何処だあああ!!!!!!」
「ロキ、下だ下」
抱えられたままの前鬼はちょいちょいと指を下に向けた。
ロキが下を向くとそこには老婆を同じくらいの身長の爪楊枝人形が立っている。
ロキはびっくりして、両腕を右に、片足で立つ。まるで舞を踊っているように。
ちなみに前鬼は一瞬、宙に放り出されたが、すぐ正気に戻ったロキが前鬼を再び抱えた。
「な、なんだぁ!!!!?これは!!!!」
「これが追っ手じゃ!!!!」
後ろから老婆が爪楊枝の人形を指さして声高らかに叫ぶ。その後むせたか、ゲホゲホと咳き込む。
「式か?」
前鬼がロキに聞く。ロキは
「こんなの見たこと無い」
と、お互い小声で言い合う。
『久し振りだな!!我が妻、秋(しゅう)よ!!!』
「まったく百年ぶりじゃの!!!」
『何ぃーーー!!!!!!!』
今度は前鬼とロキの驚愕の叫びだ。しかも見事に合っている。
「つ、妻!?ひ、ひゃくね……!!!」
ロキが言葉足らず舌足らずで口をパクつかせた。
「ババアてめぇ幾つだ?」
前鬼が老婆、秋を見下ろして聞く。が。
「レディの年齢を詮索する気か無礼者!!!!」
と、切り返された。この言葉にロキの血管はプツリと一本切れた。
さらに。
『秋よ!!!我らの百年に及ぶ戦いをここで着けようではないか!!!!』
「臨むところじゃ!!!!!」
「っだああああああああ!!!!!!!やい爪楊枝!!!!」
ロキは前鬼を抱えたまま紙に怒鳴った。
「爪楊枝言うな!!!!!!」
「やかましいわ爪楊枝!!!!いいか爪楊枝!!!たかが爪楊枝の分際で二足歩行すな爪楊枝!!!!爪楊枝なら爪楊枝らしく食卓の上に仲間を束になって使用される日を心待ちにしてろ爪楊枝!!!それともガキの手で折られて使い物にならなくなってゴミ箱にポイと放られたいか爪楊枝!!!!それなら鳥に突付かれたいか爪楊枝!!!!!それとも火で燃やしてやろうか!!?ええ!!!!?」
普段は一切大声を張り上げないロキも、切れては理性が効かない。
こんな風に大声になるのも致し方ない。
ブッチ切れまで約10秒前。
前鬼は心の中でカウントを始めた。
1,2,3,4,5、……
『フフフ……生憎、これはただの爪楊枝ではない』
「ほお」
6,7,8,9、……
青すじがこれでもかといわんばかりに立っている。
『これは使用済みの爪楊枝だ!!!!!!』
………10。
ブッツン!!!!!
「汚らしいナリでうちの敷居を跨ぐなああああああ!!!!!!!」
役小角60代目後継ぎ、役家血族初の陰陽師、役ロキ。武術歴15年。
「四聖武術青龍流最強奥義『青龍突進拳』!!!!!!」
拳に氣を溜めて爪楊枝の人形を殴り飛ばした。
哀れ爪楊枝人形は遥かな夜空へと星となって消えていった。


「そんな事が昨日あったのか」
大学への行き道。蒼樹がロキの隣を歩きながら相槌を打った。
「まったく、おかげで眠れもせなんだ」
黒髪を掻きあげながらやれやれと溜め息を付く。
「昴の容態は?」
「相変わらずだ。ずっと寝たっきり」
鬼龍召喚に疲れ、ぐったりして大学寮で寝ている昴は大学も休んでいる。
毎日蒼樹が見に行っているが、なかなか回復しないらしい。
「早く治るといいがな」
「まったくだぜ」
二人が見上げた青空は、どこまでも広かった。

≪終≫