複雑に絡み合う想い 《 音滝 洸廉様より 》
『誰にも言えない 誰かに言いたい
あの人が 誰より 大切って』


ふと、昔――百年前聞いた曲の一部が頭の中で蘇る。
その歌詞と同じ状況にある自分を思って小明は笑った。
(言えないもんね・・・・・・)
言えない。
誰かに言いたいこの想いは。
彼には・・・・・・
この世で一番大切な彼には言えない。
(だって言ってしまったら・・・・・・)
ただでさえ厳しい戦いの中で、彼の足を引っ張ってしまいそうで。
自由を奪う足枷になってしまいそうで。
だから。
(言えない)
自分はきっと誰にも言わないだろう。
彼にも、自分の主人にも、仲間達にも・・・・・・

今は雪が降っている。
冬の始まりと終わりを告げるため式神町に降る真っ白な雪だ。
この雪は町に溜まった欲望を吸い込み、溶けるとき欲望と一緒に解けるのだという。
「寒・・・」
小明は一人ごちて、駆け足で長い階段を上る。
何一つ変わらない町と咒法堂。でも、この時代には自分の知っている人はいない。
そういえば、皆は雪を見ると嫌そうな顔をしたのを思い出した。
(雪は嫌だな)
(なんで?)
(俺が愛したもう一人の女が死んだ日だからだ)
(ええ!?あんた好きな人まだいたの!?)
(まだとはなんだ失敬な。俺は20年の人生の中たった二人しの女しか愛したことがない)
(瑠璃さんがいるってのに浮気してたの・・・って、ちょっと待ってよ!!!)
ロキはさっさと部屋に引き返して小明に答えをやらなかった。
昴は。
(雪の日は、大切な人が亡くなった日だから、嫌なんだ)
(大切な人?)
(・・・・・・・・・いや、違うかな。亡くなったんじゃなくって、僕が、殺したんだっけ・・・)
(え!?何それ!?)
(あ、光鬼さんにこんな事言っても仕方ないよね。ごめん今言った事は忘れて)
(ええ!?ちょっ・・・昴君!!!)
皆、大切なものを雪の日に亡くしたと言っていた。



「ただいま〜〜」
小明が荷物を玄関に置きながら帰ってきたという挨拶をする。
一番最初に顔を覗かせたのは彼だ。
「おせえぞ小明。腹減っちまったじゃねえか」
「しょうがないでしょ?外は雪降ってんだから」
慣れた手つきで買い物袋を漁る前鬼を見下ろしながら小明が言う。

こうやって他愛もない事をやっているだけでいい。
小明はつくづく思う。
前鬼の傍に居れるだけで、彼が自分の傍にいるだけでいい。


縁側で雪雲の隙間から覗く星空を見上げながら前鬼は小明の顔を思い浮かべる。
人間を捨ててまでついてきてくれた彼女が、誰よりも愛しい。
誰より大切だから、ずっと護りたい。
(小明・・・・・・)
今は夜だから彼女も皆寝ている。そんな彼女の名を心に浮かべながら前鬼は星空を見た。


ありったけの愛しさを祈りに変えて
ありったけの想いを祈りに変えて
揺るぐことの無い誓いを変えた祈りに込めて
遥か空の向こうに必ず在る無限に広がる真っ黒な宇宙を鮮やかに、
時としては明るく彩る星々に、月に、
愛する人に届くように、この祈りを捧ぐ―――――

≪完≫