75DAY 第3章
そして役家では――
「前鬼!!どうしたの その傷!?」
帰りの遅い前鬼が気になり空間転移で呼び戻してみた小明だったがまさか怪我をして戻ってくるとは思ってもいなかった。
「ひょっとして憑依獣に!?」
「あん!?  この俺様が憑依獣ごときにやられるかよ!!」
「じゃあ何で怪我なんて…」
「目の光る鉄の箱が突進してきやがった…。」
「鉄の箱??」
「寿海のじいさんが乗っかって走る箱みてーな奴。」
「和尚が乗る…って、車?  …え?  交通事故ぉ!!?」
うそぉーーん!!という擬音をバックに驚く。
そう言えば前鬼にしっかりと交通規則を教えた覚えが無い。

だって、前鬼ってば屋根の上とか塀の上とか…後、木の枝づたいだったり、獣道だったり、おおよそ人の通れない所ばっかり通ってたし、例え道を歩いていたとしてもすばしっこい前鬼が轢かれるなんて思わないわよ 普通!!
あ〜〜もう 前鬼に保険が利けばいいのにーー!!

「おい、あさってに話しかけてねぇで傷治せよ。」
「あっ…ごめん、つい。」
促された少女は印を組み、鬼神解縛秘呪を唱える。
全身を癒す光に包まれ、次の瞬間には傷一つ残さず完治した鬼神姿の前鬼は治癒の具合を確かめる様に左腕を動かし満足気な表情を浮かべた。
前鬼の完治を確認した小明は印を解き、今考えていた案を告げる。
「あんたも今後の為に交通規則覚えた方がいいわね。
今度後鬼に頼んであげるから教えてもらいなさい。」
いきなりの提案にゲッ!!となる前鬼。
「なんでよりによって後鬼なんだ!!
冗談じゃねぇ。あいつに教わる位ならケガの方がマシだ!!」
予想以上の拒絶反応に目を瞬く小明。
「??…。 何かあったの?」
「あったの?じゃねぇ!! お前はおいつに教わった事が無いから分からねぇだろうが俺様は昔、 ヒデェ目に合わされたんだ!!」

――前鬼、君は守護術も覚えた方がいいよ――。

当時、攻撃術しか駆使出来なかった前鬼は憑依獣との戦いの度に大小のケガを負っていた。
それを見かねた後鬼が守護術の習得を勧めて来たのだ。
最初その申し出をつっぱねた前鬼だったが
「最強を自負する君が守護術を使えないままなんて変じゃないか?」
という後鬼の口車にまんまと乗せられて術の習得を試みる事になったのだが…

「それがあの野郎!!」
前鬼は牙をギリリお鳴らしながら続ける。
「手加減しねえ!飯も喰わさねえ!出来るまで休息もねえ!!
その上、自分だけはちゃっかり休んで飯喰ってやがるし!!」
前鬼の自制心を養う為だよ、 とは後鬼の弁。
「あいつに教わると禄な事が無い。絶対あいつからは教わらねえ!!」
「じゃあ 後鬼丸君として教えてもらうとか」
「断わる(怒)」
困ったなぁ、もう…という表情の小明。
「教えろ…」
「へ…?」
前鬼の顔がズイッと小明へ寄る。
「俺様に覚えて欲しいなら、お前が教えろ!!」
急接近した鋭い目に見つめられ頬にカアッと熱が集中する。
「わ、分かったわよ。教えればいいんでしょ!」
バッと両手で前鬼の胸を押しやりながら顔をそむける。
「ああ。」
分かりゃいいんだよ、という表情で前鬼は笑う。

…ったく、急に近付かないでよ。
心臓に悪いじゃない。

そっぽを向いた小明は早鐘を打つ心臓を鎮めながら視線だけ前鬼へと戻す。 小明の心中など知るハズもない当の前鬼はテーブルの上に置いてあったバナナをすでに1本食べていた。
「あ〜〜!! それ、お供え物なのに…!!」
しかし、鬼神姿で口一杯バナナを頬張っている姿があまりに間抜けでぷッと笑ってしまった。
「 …何笑ってんだ!!」
「あははは! だって…、 何か、 可愛い…。」
「!! うつけ! このオレ様が可愛いなんて言われて喜ぶか!!」
「えーー、何で?  ホメているのに…(笑) 」
「やかましい!!」
だが怒りながらもバナナを手放そうとしない様子がかえって小明の笑いを煽っている事には気付いていない。
「あはははは!!」
「笑うんじゃねぇ(怒)」
「だってーーーくっ…ふふ」

その後、バナナを見る度に思い出し笑いする様になった小明は、周りの人々に「箸が転げても笑う年頃」と噂され、
街中を「血塗れの子供の霊」の噂で持ちきりにした張本人は 我関せず と今日も悠々自適に過ごしているという。