「ッキャ〜〜!!!この馬鹿前鬼ィ!!」
清々しい朝の空気を吹き飛ばす怒鳴り声が響いた。
突然の大音響に屋根の雀たちが一斉に飛び去った。
寝ている所を蹴飛ばされ小さな体を思い切り壁に激突させて目覚めた
チビ前鬼が逆立った髪の上から痛打した頭をさすりつつ反撃に出る。
「痛ってえな!!何しやがる!!このうつけが」
安眠を邪魔されタンコブまで作らされた怒りを込めて怒鳴るが小明も
負けてはいない。
「人の布団に潜り込むなっていつも言ってるでしょ!!この助平!!」
前鬼が現世に蘇ってからと云うものこの2人が喧嘩しない日は無い。
前鬼は千年もの昔、日本最大の呪術師と謳われた役小角が使役したという最高位の鬼神であり、小明はその小角の子孫に当る。
だが、前鬼にとって小角は自分を好きな様に使役した後、永きに渡り封印した張本人であり、今目の前にいる女もその血と呪力を受け継いで再び自分を使役している。
そんな状況を誇り高き鬼神を名乗る彼が快く思うはずも無く
「いいじゃねえか、たかが寝床の1つや2つ。ケチケチすんな。」
毎日小明に逆らい続けている。最近になってようやくコンビネーションが取れてきているが
「ケチケチですって〜!これお気に入りのシーツなのよ。どうしてくれるのよ!!」
二人の喧嘩は最早日課となり、言い換えれば彼等特有のコミュニケーションであるとも言えるがその原因は些細な事がほとんどなので周囲に人々は温かい(冷たい?)目で静観している。
「大体何で最強の鬼神であるこの俺様が布団無しで寝なきゃならねぇんだ!」
そう、その『最強』を誇示する彼は本堂の広々として床の上や居間の畳の上で眠る事を常としているが、
時折小明の部屋へ潜り込んでは何時の間にか布団を横領しているのである。
それだけならまだしもお気に入りの枕やシーツに垂涎の跡を残されたとあれば小明の怒りも最もなのだが
本人は全く反省の色が無い。もう少しこのワガママ鬼に説教してやりたい所だが
家事の一切を1人で片付けねばならない小明には少しの暇も惜しいのである。
「全くもう、我が侭ばっかり言ってないであんたも少しは手伝いなさい。それから今度勝手に部屋に入ったら御飯は無しよ!!いいわね!?」
いつまでも続きそうな口論に終止符を打ち、台所へと向かう小明。
「何!?」
死刑宣告的衝撃を受けた前鬼は慌てた。
戦う事と眠る事、そして食べる事は彼のライフワークである。憑依獣との戦いで得られる憑依の実を喰らう事で鬼神力を得るのであるが現代に蘇ってからというものその三大欲求が満たされる事が極端に難しくなっている。眠る事は別に困りはしない。食物を摂取しなくても鬼神の体が朽ちる事はない。要するに彼の気分の問題なのだ。敵が現れるまでの貴重な楽しみである食事を抜かれてはたまらない。小明の後を追い急いで部屋を飛び出す。これはもう直談判あるのみ!
「ちょっ! 待ちやがれ、てめえ!!」
但し、それが成功した例は無いのだが・・・。
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